第1章 旅立ち

第5話 2度あることは…? 「千鶴さーん、ただいまー」 「みんなおかえりなさい。  …随分遅かったですね」 「い、いや……  実はこれを買いにレーベの村まで行ってたんだ」 「あら、ターバン!  …そう……レーベの村まで…」 「わたし達でも大丈夫だったんだから  千鶴お姉ちゃんもすぐに行けるよ」  初音ちゃんが素早くフォローを入れる。 「…そうね。  じゃあ早速じゃんけんをやりましょうか」 『じゃん、けん、ぽんっ!』 『………』 「いっ、今のあいこだったよね?!」 「ああ、そうそう。あいこあいこ」 「もう1回です」  なんとか取り繕おうとするみんなだったが、  千鶴さんは部屋にこもってスネてしまった。  これはやっぱりマズいよなあ………やれやれ。 「みんな、ちょっといい?」 コンコン。 「どーせ私はじゃんけんは弱いですよ。  みんなでナジミの塔でもどこへでも行けばいいんだわ……」 「千鶴さーん、じゃんけんの事なんだけど」 「慰めてくれなくったって結構です!  私の負けでいいですよ…」 「そうじゃなくてすっかり忘れてたんだけど、  2回続けて留守番も可哀相だからそれは無しって事にしようと思ってたんだ。  だから今日は千鶴さんがじゃんけんする必要は無かったんだよ」 ガチャッ!! 「それ、本当ですか!?」 「こんな事でウソついても仕方ないだろ?  さっき他のみんなでじゃんけんしたら初音ちゃんが留守番に決まったよ」 「良かった。あっ、初音が留守番になったのに良かったなんて言っちゃいけませんよね。  でも……それなら明日は耕一さんと一緒にいられるんですね…」 「千鶴さん……」 (まったくもう、耕一も千鶴姉には甘いんだから……) (でも良かった。機嫌直ったみたいだね) (初音も耕一の言う事なんて聞かなきゃ留守番する必要も無かったのにさ) (わたしは構わないよ。みんなが仲良くしている方が嬉しいもん) (ツンツン…) (ん?どうした、楓) (姉さん私達が覗いてる事に気付いてます) (えっ?!……げっ…初音!台所行こう、台所!) (う、うん!ご飯の用意しなきゃね!) コソコソ… 「クスッ、あの子達ったら……」 「みんな心配してたんだよ。  千鶴さんがそんなだと安心して冒険に出られないって」 「私ったら自分の事ばっかり。姉失格ですね」  千鶴さんがコツンと自分の頭を叩く。  そんな時折見せる子供っぽい仕草は本当に可愛らしく見える。 「千鶴さん」 「あっ………」 「耕一〜っ、そろそろメシ出来るから皿出すのくらい手伝え〜」 サッ!! 「もう…本当にあの子達ったら」 「ははは……」  ふくれる千鶴さんを前に苦笑いするしかなかった。
第6話 寄り道  千鶴さんの希望もあって早速レーベの村へ向かっている途中の事だ。 「あら?あの建物は何かしら」  少しでも近道をと進んだ森の中に小さな建物を見つけた。 「ダメだ。入口にカギがかかってるよ」 「さすがに素手じゃ無理だな」 「梓、そういうのは無謀って言うのよ」 「なんだとーっ?!」 「まあまあ…」  建物に入れなさそうな事が判ってその場を離れようとした時、  周りの様子を見に行った楓ちゃんが戻ってきた。 「どう?何かあった?」 「向こうに地下へ続く階段が」 「地下か…建物の中に続いてるかもしれない、行ってみよう」 「えっ!?じゃあレーベの村は…」 「ごめん、後にしようよ。  第一行ってもあんまりお金を持って無いから買い物も出来ないよ」 「ターバン買ったからな」 「うぅ……そうですね…」  そうして思ったよりもしっかりした階段を下りると、  明らかに人の手で作られた地下道に出た。 「おっ階段だ。  あそこから建物に入れるのかな?」 「けど方向が全然違います」 「うん、とにかく上ってみよう」  階段を上ると確かに建物の中には出たが、  先ほどの建物より明らかに大きい。 「耕一!そ、外!!」 「どうした梓?」 「海が見える………」 「海…まさか!」  急いで外へ出て辺りを見まわす。 「やっぱり!アリアハンのお城…!!」 「という事はここは」 「ナジミの塔…ですね」 「あんな所からも行けたのか、  てっきり岬の洞窟からしか行けないのかと思ってたよ」 「きっとさっきの地下道が繋がってるんだ」 「で、どうするんです?  このまま探索を続けますか?」 「そうだな、とりあえず1階を一回りして様子をみてみよう。」  1階を調べて回ると上への階段の他に下への階段も見つけた。  塔の地下ならそう深くもないだろうと下りる事になり、  側にあったテーブルとイスを気にしつつ進んだ先には不思議な光景が広がっていた。 「いらっしゃい」 「き、喫茶店!?」  そこは確かにモンスターの徘徊する塔の地下なのに、  店の主人と思われる髭を生やした無口な男の人が平然としていた。 「あ、あの…」 「ああ、注文?それとも奥で休んでくかい?」  どうやら奥で休憩も出来るらしい。  じゃなくて!…どうも調子が狂うなあ。 「あのさあ、ここってモンスターが入って来たりしないの?」 「ああ、来るけど?」  言葉に詰まる俺に割り込んだ梓の質問にもまるで当たり前の様に答える。 (当たり前の事に違いはないんだけど)  とか言ってる間にも階段にモンスターが現れた。  しかし俺達が身構えるよりも先に天上から透明な液体が降り注ぎ、 それを浴びたモンスターは一目散に逃げ出した。  見ると店の主人が後ろにあったローブを引っ張っていた。 「どうやら聖水みたいですね。」 「こんな仕掛けがあったのか」 「やれやれ、なんだか疲れちまったよ」 「私も少し休みたいです…」  そういえばここまで随分無理して来たんだっけ。  地下道から色々と混乱しちゃったし、  ひとまず休んで気を落ち着かせた方が良さそうだ。 「すみません、じゃあちょっと休ませてもらいます」 「ん?ああ、部屋は適当に使ってくれ」  部屋のすぐ上にモンスターがいる。  なんだか落ちつかない気もするが一時の休息をとった。
第7話 休息 「おかえりなさい、耕一お兄ちゃん。  なかなか帰らないから心配しちゃった」 「ちょっと寄り道したらナジミの塔に出ちゃってね。  地下にあったお店で休ませてもらってたんだ」 「その後千鶴姉が行きたがったもんだからレーベの村まで。  結局何も買えやしなかったけどな」 「梓っ、余計な事は言わなくていいの!」 「へえ〜っ、わたしもそのお店に行ってみたいな」 「それじゃあ明日はナジミの塔を探検する事にしようか」 「よし、だったらまずはじゃんけんだ!」  気合いの入ったじゃんけんは楓ちゃんの負けとなった。 「今度は楓ちゃんが留守番か」 「そういうことだから明日はよろしくな」 「はい…」 −翌朝− 「それじゃあ行って来るよ」 「出来るだけ早く帰るからね」 「いってらっしゃい…」  ちょっとだけ元気の無さそうな楓ちゃんに見送られての出発。  こればかりは慣れてもらわないとどうにもならない。  そして向かった先は岬の洞窟の入口。 「昨日は向こうからだったから今日はこっちから行こう」 「え、洞窟!?」 「なんだ初音、ひょっとして怖いのか?」 「うん、…ちょっとだけ」 「みんなが一緒なんだし大丈夫よ」 「そ、そうだよね!」  洞窟の中は大した広さも無く、少し進むと見慣れた場所へ出た。 「やっぱりこの地下道につながってたのか」 「じゃあ多分あの階段から塔に入れるんじゃない?」 「そうみたいね。  とりあえずまたあのお店に行って休みましょう」 「そうだね、初音ちゃんも行きたがってたし」 「やったー。  じゃあ早く行こうよ」  初音ちゃんに急かされて昨日のお店に向かう。 「いらっしゃいませー」  聞こえたのは若い男の声だった。 「あれ?あなたは……?」 「僕がどうかしましたか?」 「いや、昨日と違う人だったから」 「ああ、それは僕の叔父さんです。  僕はよくバイトに来るんですよ」  歳は俺と同じ位か、物腰の軟らかな青年で、  ぱっと見女の子に見間違えそうなおとなしい感じだった。 「そうでしたか」 「ところで何かご注文でも?」 「いや、またちょっと休憩したいんだけど」 「耕一さん、折角だから何かとりませんか?」 「そう?じゃあ何にする?」 「甘い物なんてどうです?」  そう言った瞬間バイト君の目が光った!…ような気がした。 「それなら今新作のケーキがあるんですけど  よかったら食べてみていただけませんか?」 「ケーキか…」 「あ、わたし食べてみたい!」 「よし、それじゃあそのケーキを4人分。  梓もそれでいいだろ」 「まあ、いいけど…」  テーブルについて間もなくケーキが運ばれて来た。 「お待たせしました。  これが新作のシフォンケーキです。」 「もしかしてこれ君が焼いたの?」 「そうですよ」 「へえ、では早速」 パクリ。 「どうですか?」 「普通、だな」 「普通ですね」 「うん、普通」 「普通って…何か言い様があるでしょう?」  しかしそれは正に至って普通のケーキでしか無かった。 「う〜ん、やっぱり普通」 「悪くは無いけど特にこうって感じじゃないな」 「そうですか…」  そう言うとバイト君はカウンターに戻りなにやら考え始めてしまった。 「じゃ、じゃあケーキも食べたし一休みしようか」 「そうだね」 「明日はいよいよ塔の中を探検だな」 「次はもっと卵の量を…」  ブツブツ独り言を言うバイト君をよそに俺達は休息をとることにした。
第8話 戦慄 (な、なんじゃお主は!?)  誰だ?どうしてそんなに怯えて… (一体何を…!!や、やめ――) チィーーーン ガバッ!! 「はあっ、はあっ、………ッ」  今のは…夢?でもあの感触は…… 「そんなはずないよな…」 カチャ。 「あ、耕一さん、おはようございます」 「ああ、おはよう……そろそろ行こうか」 「そうですね。  あんまりのんびりしていると楓がスネちゃいますからね」 「それは千鶴姉のことだろ」 「あ、梓っ!!」 「ふふふっ、そうだね」 「初音まで…!」  家での一件もあってその事に関しては反論しづらいらしい。 「とにかくいつも誰かが留守番してるんだし早く行こう」 『はーい』 ガチャ。 「あ、お帰りですか?」  あれ?来た時と違う人… 「あの、何か?」 「もしかしてあなたもバイトの方ですか」 「ああ、彰のやつ俺が来るなりちょっと頼むとか言って奥にこもっちゃって。  何か作ってるみたいなんですけど」  きっとケーキを試作しているんだろう。 「そういえば今休憩しているお客さんに  今度また寄ってくださいって伝えるように言われてたっけ」 「そうですか、じゃあまた帰りにでも寄らせてもらいます」 「ありがとうございましたー」 「これで帰りにもケーキを食べる事になりそうですね」 「美味しかったら楓ちゃんのおみやげにしよう」  ちょっとした楽しみを胸にナジミの塔を探索。  それほど苦労もなく順調に上って行った。  しかし上り詰めた先で見た光景はそんな気分も消し飛ぶほど凄惨なものだった。 「初音ちゃんは下で待ってて!」 「え、でも…」 「いいから!!」 「う、うん……わかった…」  そこには一面の血の跡と人だったと思われる物の無残な姿があった。 「初音に見せられないわけだ。  しかし一体どうしちまったっていうんだ?」 「この辺りのモンスターの仕業とも思えませんね」 「まさか………」 「耕一さん?」  この場所は、今朝の………もしそうなら!! 「あった………」 「それは鍵ですね、この塔のかしら。  でもまるである事が分かってたみたいでしたけど…」 「分かってたんだ」 『え!?』 「はっきりと覚えているんだ。  昨晩この人がここで…殺されるところを」 「そんな………」 「うそだろ…だって耕一、昨日の夜部屋を出た様子はなかったぞ?!」 「俺だって部屋を出た覚えは無いよ。  それにその記憶だって夢だと思ってた。  でもこの手にはその感触が、今でも………」 「耕一さん………」 「き、気にすんなよ。  これが…、  これが耕一の仕業じゃない事はあたしが保障する!」 「そうです、耕一さんがこんな事をするはずがありません!!」 「ありがとう梓、千鶴さん。」 「それに…こんな事が出来る人間なんて………」  確かに人間の力でこんな風に出来るとは思えない。  けどそれじゃあこの記憶は、この手に残る感触は…! 「…行こう。  こんな所で考えていたって解決するわけじゃない。  もし他に犯人がいるのなら俺達で見つけ出すんだ」 「耕一さんっ!」 「へへっ、そうこなくっちゃ。  犯人をとっ捕まえてこてんぱんにしてやろうぜ!」  俺達はその場に簡単な墓標を立ててその人の冥福を祈り、  その部屋を後にした。 「あ、耕一お兄ちゃん!  ねえ、上に何があったの?」 「うん、こんな鍵を見つけたよ。  さあ、早く帰ろう」 「うん…あっそうだ!  帰るんだったらまたあのお店に寄って行こうよ」  初音ちゃんはあの店が気に入ったらしい。  あまり気は乗らなかったが約束もあったので寄ることにした。  カウンターには2人の青年。 「いらっしゃい。あっ、あなた達は!  さっき丁度新しいケーキが焼けたところなんですよ。  また試食していただけませんか?」 「お前そんなことお客さんに頼まなくても…」 「だって冬弥に聞いても反応が面白くないし。  それにいろんな人の意見を聞いてみなくちゃ」  あんまりそんな気分じゃないけど気分転換にはなるか… 「どうぞ、特製ケーキです」 『………』  これは…ヤバそうだ。  変に緑がかった色具合。匂いは悪くないんだけど…  しばらくの沈黙の後、  多少ためらっていた初音ちゃんが意を決してそれを口にした。 『………』 「どう?初音」 「無理しなくていいんだぞ」 「…あれっ?美味しい」  続いてもう一口。 「うんっ、美味しいよ!  そんなに甘くなくてなんだかスッキリする感じ」 「本当に!?どれどれ…」  確かに甘さは控えめで味も悪くない。  それに気だるかった体が軽くなった気がする。 「あら、本当。  なんだか不思議な味ね」 「うん、見てくれはイマイチだけど美味い。  それに何か元気になった気がする」 「本当ですか?!  実は各種薬草を練り込んでみたんです」 「なるほど、薬草を料理に使うってのは考えた事無かったな。  よし!あたしも今度試してみよう」  “特製薬草ケーキ”。  案外この店の名物になるかもしれない。  そして俺達はケーキをお土産に帰途へついた。
第9話 手がかり 「美味しい…」 「だろ?  もうちょっと見た目をなんとかすれば絶対流行るよな」 「あのお店、お城から行ける事もわかりましたし、  留守番の時に遊びに行ってもいいですか?」 「そうだね、そんなに強いモンスターもいないみたいだし。  だけどくれぐれも気をつけるように!」 「やったーっ、またこのケーキ食べに行こうっと」  ナジミの塔で拾った鍵は何故かお城の地下に続く扉を開いた。  牢屋に繋がっていたという事は  ナジミの塔は誰かを閉じ込めるためのものだったのだろうか?  ともかく家に帰った俺達は楓ちゃんにお土産のケーキを渡し、  団欒の一時を過ごしていた。 「さてと、これからどうしようか」 「そういえば私達って魔王がどこにいるのかも知らないんですよね」 「お城で聞けば何かわかるんじゃないのか?」 「う〜ん、あんまり期待は出来ないけど行ってみるか」  早速みんなでお城へ向かう。  するとお城の前に見覚えのある眼鏡の女の子がいた。 「あれ?由美子さん!?」  小出由美子さん。  俺とは学校で知り合った仲だ。 「あら、柏木君!  どうしたのこんな所で?」 「由美子さんこそどうしてここに?」 「私?  私は魔法の玉の事を調べてたんだけど」 「魔法の玉?」 「この辺りで作ってるって聞いて興味を持ってね、  レポートの題材にと思って調べてたのよ。  柏木君達は?なんだか物騒な格好してるけど」 「俺達は…」  俺はここまでのいきさつを説明した。 「そう…お父さんの意思を継いで………」 「それで魔王の居場所を調べてるんですけど  小出さんは何か知っていませんか?」 「う〜ん、私はその事はあんまり…  でもその魔法の玉を作ってる人が物知りらしいのよ。  なんでも古い物を見る目は確かだそうよ」 「それでその人はどこに?」 「まだこの辺りって事しか…」 「そっか………」 「それじゃ私はまだ調べたい事があるから。  判ったら教えるわね」 「ありがとう」  その後俺達も調べて回ったものの、 大した収穫は得られずじまいだった。 その夜。 (どなたかな?入口には鍵をかけていたはずですが…) (………) (ほほう、魔法の玉が目的ですか。  しかしこれは旅人の扉に向かう勇者の為の物、  簡単に渡すわけには参りませんね) 「………また変な夢だ…  魔法の玉がどうのって言ってたけどまさかあの人が?」  不可解ではあったが手がかりが少な過ぎる。  俺はその事を皆には告げず朝食を済ませてくつろいでいた。 「すいませーん」 「あれ?由美子さん、  どうしたのこんな朝早くに?」 「昨日の手がかりがつかめたから教えてあげようかと思って…」 「もしかして寝てないの?」 「これくらい慣れてるから平気よ。  それでその人の居場所なんだけど、  どうやらレーベの村らしいわね。」 「それじゃあ今から行ってみようか」 「悪いけど私これから寝るから柏木君達だけで行ってきて。  私は後で構わないから」 「そうですか、そういう事なら仕方ありませんわね」  いつからいたのか千鶴さんが割って入って来た。  そして由美子さんを見送ってからレーベの村に向かう。  村で話を聞くとちょっと変わったおじいさんがいるらしかった。 「この家か…」 「あれ?このドアこじ開けた跡がある」 「本当だ………!」  今朝の夢の事を思い出した俺は急いで中へ入る。 「…誰もいない?」  そこは確かに夢で見た覚えのある部屋だったが、  争った形跡もなくもぬけのカラだった。 「耕一さん、どうしたんですか急に!?」 「旅人の扉………」 「え?」 「行こう!」
第10話 追跡 「耕一!一体どうしたってんだよ?!」 「また見たんだ」 「…!」 「夢の中で言ってたんだ、  “旅人の扉に向かう勇者”って」 「だったらすぐに行かないとその人が…」 「うん、急ごう!」 「わかった、それならあたしは残る」 「梓?!」 「急ぐんだろ?  だったらじゃんけんなんてやってる場合じゃない。  それにあたしだけまだ留守番してないしな。」 「梓…」 「梓お姉ちゃん…」 「早速あの喫茶店にでも行ってみるよ」  梓の奴強がり言いやがって… 「よし、それじゃあ軽く犯人とっ捕まえて帰って来るか!」 「そうだね、早く終わらせて帰って来よ♪」 「ちょっとちょっと、  あんまり帰りが早いと出かける暇も無くなっちまうよ」 「だったら余計早く帰って来ないと」 「早く行きましょう」 「ったく楓までそんな事…  へへっ、こりゃあたしも大急ぎで帰らなきゃな」  駆け出す様にしてその場を離れた俺達は、  すぐさま旅人の扉があるという洞窟へ向かった。 −いざないの洞窟− 「この洞窟なんだよな…」 「でもここって行き止まりなんじゃありませんでしたっけ?」 「とにかく入ってみよう」  ひとまず行き止まり“だった”部屋へと進む。  そこには血を流して倒れている人影があった。 「あの人は…!」  駆け寄ってみるとそれは夢で見たあの老人だった。  どうやら気を失っているようだ。 「大丈夫ですか?!  酷い傷だ…初音ちゃん!」 「う、うん!」  初音ちゃんが治癒魔法をかける。  しばらくすると老人は意識を取り戻した。 「う、ううむ………」 「良かった、気が付いたみたいですね」 「その出で立ちは………  魔法の玉をお探しですかな?」 「ええ、それより無事で何よりです」 「うかつにも奪われてしまいましたよ。  もっともあれはここで使う物だったようですから  問題は無かったみたいですがね」  老人が指さした先を見ると壁に大きな穴を開けた様になっていた。 「私をさらった男はあそこに入って行きました。  あの男は危険です、早く止めた方が良い」  男?人間なのか…? 「さ、私のことは気になさらず早く追いかけなさい」 「はい、それではお気を付けて」 「はっはっは、それを言うのは私の方ですよ。  そうだ、これを持って行くと良い」  そう言って手渡されたのは一枚の地図。  俺達は老人に礼を言ってから穴の奥へと進み、  その先で不思議な光を放つ場所に辿りついた。 「これが旅人の扉…?」 「ここに飛び込むの?」 「そのようです」  ためらっている暇は無い。  俺は意を決してそこへ足を踏み入れた。
留守番 梓の場合-その1- 「こんちはー」 「あ、いらっしゃい。  あれ?今日はお一人なんですか?」 「ああ、あたしはちょっと留守番でね」 「それでご注文は?」 「薬草ケーキ!  …といきたいところだけど今日は違うんだ」 「と言うと?」 「あたしはこう見えても料理に関してはちょっとうるさくてね、  薬草を使ったメニューを色々と考えてみたんだ」 「へえ、それは面白そうですね」 「だろ?それで…」    ・    ・    ・ 「で、コレはなんだ?」 「梓さん考案の薬草メニューだよ。  薬草入りシチューに毒消し草のサラダ、  こっちのサンドウィッチには満月草が…」 「そうじゃなくてこの量はなんなんだ!?」 「それは…ちょっと調子に乗って作りすぎちゃったみたいで……」 「あはは………(ポリポリ)」 「そういうわけだから試食ついでに食べるの手伝ってよ。  冬弥、お昼まだだろ?」 「まったく…(パクッ)」 モグモグ… 「味は悪くないみたいだから良いけどな」 「そりゃああたしが作ったんだから不味いわけないだろ」 「なるほど、これは確かに美味い」 「あ、店長さん」 「でも次からは一度に作るのは一品だけにしてくれ」 「はい………」
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