第2章 新たな世界

第11話 運命的な出会い?  これは……夢…?  血の匂い、悲しい瞳――― 「あれ?ここは……」  気が付くと辺りには見知らぬ風景が広がっていた。 「耕一さん、大丈夫ですか?」 「ああ、そうか。  俺達旅人の扉に入って…」 「耕一お兄ちゃ〜ん、あっちにお城が見えるよ〜!」  初音ちゃんが指差す先を見ると遠くに大きな建物が見えた。 「町もあるみたいだ。  奴の情報が聞けるかもしれない。  とにかく行ってみよう」  町に入ってまずはお城を訪ねようと話していたその時。 「待ちなさい、Micky!」 「dimwit Helen!」 「What's that!?」 ドンッ!! 「あいたた…」  突然走ってきた誰かにぶつかってしまい、  お互い尻もちをつくような格好になった。 「耕一さん、大丈夫ですか?」 「ああ、俺は大丈夫。  それよりも向こうが…」  相手は金髪の女の子。  結構激しくぶつかっちゃったみたいだけど………!!  この位置は…ス、スカートの中身が…!  俺は千鶴さん達に勘付かれない様に慌てて立ち上がり、  尻もちをついている女の子に手を差し伸べた。 「大丈夫かい?」 (アイタタ…全くMickyったら…  ハッ!これってもしかして、dramaticな出会い?!) 「あ、うん、へーきネッ」  なんだか妙に目が煌いてる気がする…  ともかく手を引いて起こしてあげた。 「やれやれ…  本当にHelenは薄のろだな」  こちらの騒動に気付いてさっきの男の子が戻って来た。  両手を左右に広げて呆れ返る姿が妙に様になっていて可笑しい。 「元はといえばMickyのせいでしょう!  ちゃんと謝りなさい!」 「いや、こっちも不注意だったし、  全然平気ですから」 「だってさ」 「もう…」 「それじゃあ私達急ぎますから。  行きましょう、耕一さん」 「あ、うん。それじゃ」 (キレイな人…きっとSteadyね……)  妙に急かす千鶴さんを追いかけるようにしてその場を立ち去る俺だった。
第12話 綺麗なお姉さんは… 「ガルルルル…」  お城の入口に一匹の犬がいた。  飼い犬みたいだけどお城の番犬にしては不釣合いな  カールした赤毛で耳のたれた大きな犬だった。  しかし明らかに俺達を警戒していて初音ちゃんが恐がっている。 「初音ちゃん、大丈夫だから」  とは言うものの俺もちょっと腰が引けている。 「可愛い…」  そうして立ち往生していると不意に楓ちゃんがその犬の方に近寄って行った。 「楓ちゃん、危ない!」 そっ…  慌てて止めようとするのも気にかけず楓ちゃんが手を伸ばすと、  その犬は警戒を解いて大人しくなった。 「ふふっ、良い子…」 「くーん」  それを見ていた初音ちゃんも恐る恐る近づく。 「初音、恐がっちゃ駄目」 「う、うん…」  すると犬の方から初音ちゃんに近寄ってなついてきた。 「わあ、くすぐったい」  どうやら初音ちゃんの方も緊張がほぐれたらしい。 「うふふ、動物って本当に人間の感情に敏感ですね」 「それにしても楓ちゃんには驚いたなぁ」 「楓も敏感な子ですから」 「あら、お客様?」  初音ちゃんと楓ちゃんが犬と遊んでいるのを見ていると、  ふいに後ろから声をかけられた。 「なんだか物騒な格好をしてますけど  Julieがあれだけなつくところを見ると  悪い人じゃ無さそうね」  ジュリーっていうのは多分あの犬のことだろう。  でも見るなり悪い人じゃ無さそうだなんて… 「あの、すみませんけどあなたは…」 「あ、ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね。  私はシンディと申します」 「ど、どうも。俺は耕一って言います。  それからこっちが…」  みんなを紹介しながら改めてその人を見る。  ブロンドの髪が印象的なものすごい美人だ。 「そうですか、それで冒険の旅を…  すみませんね、いきなり変なこと言っちゃって。  今ちょっとお城の方が立て込んでいるので…」 「何かあったんですか?」 「実は大きな声では言えないんですけど  父さんの大切な王冠が盗まれてしまったの」 「え!?それじゃあシンディさんのお父さんって…」 「はい、このお城の王様です。一応…」  つまりシンディさんはお姫様…  そうと知ると思わずため息が出た。 「あ、そんなにかしこまらなくてもいいんですよ。  王様といっても形だけみたいなものですから」 「はあ…」  とは言うもののやはり意識してしまう。 「とにかくよろしければ父さんの話を聞いてみてください」  お城に忍び込んだ盗賊…  もしかするとあいつかもしれない。 「わかりました。お伺いさせていただきます」 「良かった。それじゃあ父さんの所まで案内しますね」 クイッ 「ん?」  シンディさんについて行こうとすると誰かが袖を引っぱった。 「千鶴さん、どうしたの?」  引いていたのは千鶴さん。  なんだか少し不機嫌な顔をしている。 「行くよ、千鶴さん」  俺は少し苦笑して千鶴さんの手を引いてあげた。
第13話 謁見 「FREEZE!」  シンディさんのさんの案内で階段を上ると、  突然声がしたと思ったら銃口を突き付けられていた。 「ナンダ、Syndyカ。  マタ族ガ入ッタノカト思ッタヨ」 「父さん、こんな時だから護身用に持つのを許したけど  人に向ける時は相手を確認してからにして頂戴」 「オイオイ、ソレジャ護身ノ意味ガナイジャナイカ」  そう言いつつもそのライフルはこちらを向いたままだ。 「あの…」 「ン?コチラノ方々ハドナタカナ?」  銃口が俺達に向けられる。 「この人達は冒険の旅の途中なの。  王冠の話を聞いてくださるそうよ」 「オオ!!ソレハアリガタイ!」 「お役に立てればいいんですけど、それより…」 「ドウカシタノカネ?」 「あらあら、そんな物を向けられているから困っていますよ」  向けられたライフルに戸惑っている俺達に気付いて  王様の隣に座っていた和服の女性が注意してくれた。  多分王妃様なんだろう。とても上品そうな方だが  和服姿はその場所にあって一人浮いている様に思えた。 「オット、スマンスマン。ツイ癖デネ。  弾ハ入ッテ…イルンダッタナ、ハッハッハ」 「ははは…」  おいおい、笑い事じゃないだろ…  それからも度々向けられる銃口に苦笑いしつつ話を聞くと、  王冠を盗んだ盗賊は北へ逃げたらしいという事だった。 「それで盗賊の姿を見た人はいるんですか?」 「残念だけどはっきり見た人はいないの。  でも一人じゃないって事は分かっているわ」  一人じゃない…魔法の玉を作った人を連れて行ったのは一人。  今度はあいつの仕業じゃ無いのか…? 「話は分かりました。  それじゃあ俺達も旅先で行方を調べてみようと思います」 「ソウカ、ソウシテモラエルト助カル。  モシモ取リ戻セタナラソレナリノオ礼ハスルヨ」  話を終えて立ち去ろうとすると、 「オオ、ソウダ!ココデ出会ッタノモナニカノ縁ダ。  ヨカッタラ夕食ヲ食ベテ行クトイイ」 「それじゃあ今夜はご馳走ね」 「困ったわ、今Maggieは修理中なのよ」 「ナンテコトダ…」 「それは困ったわねぇ。忙しくなりそう」 「あ、あの…俺達先を急ぎますからお構いなく」  俺達はそそくさとお城を後にした。 「ねえ、どうして断わったの?  折角お城のお料理が食べられるところだったのに」 「ちょっと勿体無かったけど何となく落ち着かなくって。  家に帰って梓の料理を食べた方が良いよ」 「私もその方が良いです」 「そうね、ちょっと先が長くなりそうですし、  一旦帰った方が良さそうですね」 「梓お姉ちゃん待ちくたびれちゃってるかもしれないね」  言えない………  あのやり取りを見て台所に立とうとする千鶴さんを思い出したなんて…
第14話 待ちきれなくて 『ただいま〜』 「耕一ぃ〜!」  俺達が帰ると梓が飛び出してきた。 「ど、どうしたんだ梓!?」 「良かった…今日帰ってこなかったらどうしようかと思ったよ」  そう言うと梓は居間の方へ招き寄せた。 「一体何が…うわっ!」 「すごいご馳走…」 「というわけなんだ」  居間には大量の料理が並んでいた。 「なにが“というわけ”だ。  いくらなんでも作り過ぎだろぞ、これは」 「いや〜、あんまり暇だったから  試しに色々作ってみたら面白くって…」 「あっ、そうか。  薬草料理だね、梓お姉ちゃん」 「あの喫茶店の人にも結構好評だったんだ」 「まったく梓ったら。  帰ってきて正解でしたね」 「いや、これは向こうで食べてきた方が良かったかも知れないぞ。  なにせお城の晩餐会だったんだからな」 「えぇっ?!  そ、それって本当か!?」 「本当です」  驚く梓に俺達は向こうで会ったことを食事をしながら説明した。 「それで梓お姉ちゃんのお料理を食べに帰って来たんだよね」 「そうそう、やっぱり食べ慣れた物の方がいいからな」 「へへっ、なんか嬉しいなそれ」 「この料理も美味しいです」  もちろんお城の夕食を断わった本当の理由はそれとなく隠す。 「でも結局あいつの手がかりは無かったんだな」 「そうね、王冠を盗んだ相手は複数だったみたいですし」 「これからはあいつを追いかけながら王冠も探すのか」 「そうは言ってもあんな事をする奴をのさばらせてはおけないし、  困っている人を放ってもいられないだろ」 「耕一さんの言う通りです」 「誰も嫌だなんて言ってないだろ。  あたし達の本当の目的は魔王討伐なんだから  さっさと済ませちまおうって事さ」 「そうだよね、のんびりしてちゃいけないんだったね」 「じゃあ早速明日の準備をしましょうか」 『!!』 ――次の日 「いってらっしゃい」  俺達を見送ったのは楓ちゃんだった。
第15話 すごろく実況中継  ロマリアから北の山中を進むと変わった建物が忽然と姿を現した。  昼間から電飾が明るくやけに賑やかだ。 「こんな所にゲームセンターが?」 「えっ、ゲーム出来るの!?」 「面白そうですね、入ってみましょうか」 「おいおい、そんな事やってる暇ないだろ?」 「う〜ん、ちょっとくらいなら良いんじゃないかな?  たまには生き抜きも必要だよ」 「どんなゲームが出来るんだろうね」  早速中に入ってみる。 ヒュー、ドスンッ!! 「うわっ!」  突然上から眼鏡をかけた女の子が落ちて来た。 「なんやのこれ、こんなん上がれるワケがあらへん!  もしかしてイカサマやってるんと違うか?!」  あっけにとられる俺達を尻目に女の子は奥へと入って行った。 「何なんだここは!?」  首をかしげながら階段を上るとさっきの女の子が店員らしき人と話していた。 「あんな所に落とし穴があったら進めるわけ無いやないの!」 「ですが実際に上がった方は何人もいるんですし…」 「そんならあんたがやってみ?  店員やったら簡単やろ?!」 「そんな無茶苦茶な………」  女の子に気圧されて店員は困ってしまっている様だ。  梓が見かねて割って入った。 「やだやだ、店員にやつ当たりかよ?」 「なんやのあんた?!」 「あたしはただの客だけど見てられなくって。  どんなゲームだかしらないけど負けるのは自分のせいだろ?」 「そないな事言うたかて無理なもんは無理や!」 「無理だと思ったらさっさと見切りをつけるのが賢いと思うけど?」 「せやけど景品に欲しいのんがあったし…」  梓の奴、入るのに賛成してなかったわりに結構詳しいな。 「こんなぬいぐるみにムキにならなくても」 「とれないと思ったら無性に欲しなってしもて…」 「よし!こんな時は耕一の出番だ!!」 「は?なんで俺が!?」 「こういうのは耕一の方が得意だろ。  どうせやるもの決めてなかったんだし、ダメモトでやってみろよ」 「勝手に決めるなよまったく…まあ良いけど。  で、どんなゲームなのこれ?」 「要はでっかいすごろくや。  サイコロ10回でゴールに行ければ上がり、  10回で上がれなかったり途中の落とし穴に落ちたら負け。」 「なるほど、それでさっきは上から落っこちてきたのか」 「なっ…!もしかしてさっきの見とったんか!?」 「初めて来ていきなりだったから驚いたよ」 「まったく恥かしいわ………」  女の子は照れくさそうにそっぽを向いた。 「それじゃあちょっとやってみるか!  あのぬいぐるみが欲しかったんだっけ?」 「そんなんもうええよ、なんか冷めてしもたし」 「まあまあ、こうなったのも何かの縁だと思うし、  と言ってもやるの初めてだから期待されても困るけど」 「頑張ってね、耕一お兄ちゃん」 「私達出口で待ってますからね」 「うっし、一丁やるか!」  そんなわけで初のすごろく開始! 1回目…1  なにも起こらなかった。 2回目…6  いきなり財布がずっしり重たくなった。  なんと742ゴールドを手に入れた!! 3回目…4  2歩戻された後壷を調べると「皮の帽子」が入っていた。 4回目…1  50ゴールド落っことした… 5回目…4  HPとMPが全回復した! 6回目…1  「おおありくい」と「おおがらす」が現れた!  なんだ、アリアハンにいた奴だ。一人でも楽勝!! 7回目…6 「じんめんちょう」と「フロッガー」が現れた!  さっきよりは強いけど敵じゃない。 8回目…2  またしても50ゴールド落とす。 9回目…3  なんとゴールに到着!! 「おめでとうございます!  こちらが景品になります」  景品を受け取って出口へ進む。 「やったね!耕一お兄ちゃん」 「ははっ、ビギナーズラックって奴かな」 「でも凄いです、1回で上がっちゃうなんて」 「あれ、クリアすると思ってなかったの?」 「もう…そんなわけ無いじゃないですか」  そんなやり取りを眼鏡の娘があっけにとられて見ていた。 「あっ、そうだ。はいこれ」 「ああ…せっかくやから貰っておくわ。  しっかし何かコツでもあるんかいな、ますます納得いかんわ」 「コツって言っても結局サイコロ頼みだからなぁ…」 「よっしゃ!もっかい挑戦や!!」 「もう文句付けたりすんなよ?」 「そんな事はわかっとる。  さっきはちょっといらついてただけや」  ちょっとふてくされた顔に苦笑する。 「さて、じゃあ俺達は先を急ごう。  いつまでも暗くならない内に町を見付けないとな」 「それやったらこの先の山道を進むとカザーブって村があるで」 「あ、ありがとう………えっと…」 「智子や。保科智子」 「保科さんか。俺の名前は」 「“こういち”やろ。  さっきから何遍も聞いとる」  今の今までお互いの名前も知らずに言い合っていた事に気付いて  遅まきながらみんなを紹介したのだった。 「それじゃ頑張ってね、智子お姉ちゃん」 「ありがとう初音ちゃん。  こうなったら絶対に上がったるわ!」  意気揚揚とすごろく場へ向かう保科さんを見送って  カザーブの村を目指すのだった。 (お姉ちゃんか…、  そんなに歳は離れとらんらしいけどなんかええなあ。  私もああいう姉妹がおったらな…)
留守番 楓の場合-その1- 「ふう…」 −耕一達がゲームセンターを見付けた頃− 「姉さん達今頃どうしてるかしら。  ひょっとしてもう盗賊達を捕まえていたりして…」 「そんなはず無いか。  いくらロマリアまでは魔法(ルーラ)でひとっ飛びだからって  まだ半日も経っていないもの」  暇を持て余していた。 「梓姉さんたらしっかり食事の準備はしてあるんだから。  私だってたまには何か作りたくなるのに…」  どうやら薬草料理に興味を持ったらしい。 「あっ、でもおやつになりそうなものは無いみたい。  折角だからあのお店に行ってこよう」  お菓子作りはまだ未知の領域なのか?  そんなこんなでナジミの塔の地下。 「あ、楓ちゃん、いらっしゃい」 「おや、お嬢さんは…」 「あっ!あなたは洞窟で…」  そこに居たのは“旅人の扉”の洞窟で出会った老人だった。 「今、丁度あなた方のお話を伺っていたところですよ。  このケーキもなかなかのもんです」  そう言って薬草ケーキを一口。 「そうですか、まだあの男は…」 「すみません…」 「いやいや、楓さんのせいじゃありませんよ。  それにそれが目的の旅ではありますまい」 「それでも放ってはおけませんから…」 「おやおや、折角の休日に気を煩わせてしまいましたな。  罪滅ぼしに何かご馳走しましょう」  老人の申し出に遠慮がちだったが  結局断り切れずハーブティーで一服、  旅先の話に興じた。 「なるほど、あの洞窟の奥にはそんな物が」 「それでロマリアっていうお城があったんです」 「一度行ってみたいものですね」 「キメラの翼を使えばすぐですよ」 「それでは旅の楽しみがなくなってしまいますよ。  そこまでの道程も旅の醍醐味というものでしょう」 「ふふっ、そうですね」  女の子と老人と青年、  不思議な採り合わせの会話は夕暮れまで続いた。
第16話 不可解 「のどかな村だな…」  ゲームセンターを出た俺達は、 保科さんの言っていたカザーブの村へ辿り着いた。 「盗賊やあの男みたいな話とはてんで無縁な感じだぜ?」 「だからって何もしないわけにはいかないでしょう」 「分かってるって」  ひとまず手がかりは無いか村人に聞いて回るが、  思うように情報は集まらない。 「ここには寄ってないのかなぁ…」 「もうちょっと調べてみましょうよ」 「あっ、あの人まだ聞いてないよね、すみませ〜ん」  村外れにたたずむ女の子に話しかける。 「ん、何?」 「あのう、この辺りで怪しい人達を見かけませんでしたか?」 「怪しい人?いるよ」 「え!本当ですか!?」 「今目の前に」 「!」  あわてて辺りを見まわす。 「ど、どこに!?」  するとその娘はスッとこちらを指差して、 「あなた達、怪しい人」 『・・・』  確かに俺達はのどかな村には場違いな格好かも…  ひとまずその娘に俺達の素姓を説明する。 「ふ〜ん、それで?」 「ですからその男か盗賊達みたいな人を見ていないかと」  するとまた俺達を指差し、 「盗賊みたいな人達」 『・・・・・・』 「冗談。  西の塔に盗賊が棲んでると思う。  でもお城に盗みに入るような連中じゃないかも」  今まで俺達をからかってたのか…? 「あ、ありがとう。」  とにかくお礼を言ってその塔を目指す事にした。 「全くなんだったんだあの娘は………」
第17話 不思議  カザーブの村の西にあるというシャンパーニの塔へ向かう途中。 「梓ー、あんまり張り切るなよー」  いままで素手でしか戦った事の無かった梓が  「鉄の爪」を手に入れてはしゃいでいた。 チリチリチリ… 『!』  今の感覚はなんだ!?  頭の中に直接響くような… 「耕一さん、今の…」 「ああ、俺も感じた。ひょっとしてみんなも?」 コクン。 「なんだったんだろうね?」 「わからない。  もしかするとあの塔に何かあるのかもしれない」  俺達は足早に塔を目指した。 「ここか…」 「別に普通の塔だよな?」 「でも気を付けた方がよさそうですね」  いつも以上に用心して足を進めた。 −屋上− 「あれ?もうてっぺんかよ」 「大した事無かったね」 「ところで盗賊達は!?」 「耕一さん、あそこ!」  千鶴さんが指差す方を見ると男達が倒れていた。 「死んじゃってるの…?」 「いや、気を失ってるみたいだ」 「どうしちまったんだ一体?」 「ここは電波がよく届くよ…」 『?!』  気が付けばそこに女の子が立っていた。 「大丈夫、みんなもう元に戻ったから」 「え?」  すると倒れていた男達が意識を取り戻した。 「うう……?…あ!  体が、体が自由に動く!治ったんだ!!」  治った?何があったんだ? 「北の森…」 「あ、ちょっと!」  そう言うとその女の子は居なくなってしまった。  正気を取り戻したと言う盗賊達の話を聞くと、  彼らは普段その日暮らしの生活をしていたのが  ある日突然衝動に駆られ、気が付いたら王冠を盗み出していたと言う。  俺達がわけを話すとおとなしく王冠を差し出してくれた。  あの女の子といい、おかしな事ばっかりだ。
第18話 partyパーティー 「王冠が見付かって良かったね」 「何だか拍子抜けだったけどな」  王冠を取り戻した俺達はひとまずロマリアのお城に向かっていた。 「しかし何だったんでしょうね、あの人達」 「そんなに悪い人じゃなかったよね」 「誰かに操られてたみたいな事を言ってたけど  そんな事ってあるのかよ?」  塔に行く時に感じたあの感覚…頭の中に直接響く…  盗賊達も同じような感じだったようだし、  やっぱりあの女の子が何か知っているとしか思えない。  北の森、調べた方がいいかもしれないな。 「とにかく今は王冠を返しに行こう」 −ロマリア城− 「オオ、王冠ヲ取リ戻シテクレタノカ!!」 「お話して何日も経っていないのに…  本当にありがとうございました」 「いやあ、たまたま運がよかっただけですよ」  本当に幸運だったんじゃないだろうか。  俺は塔での出来事を王様に話した。 「ナルホド、素直ニ返シテクレタヨウダシ、  盗賊達ヲ咎メルノハヤメテオコウ」 「その事を知らせれば彼らも安心するでしょう」 「トニカク今夜ハ盛大ニパーティーヲヤロウ。  耕一君達ハモチロン参加シテクレルネ?」 「ええ、よろこんで」 「この間は残念だったけど、  今度はMaggieの修理も終わってるから大丈夫よ」 「ヨシ!決定ダ!!  準備ガ出来ルマデ部屋デクツロイデクレ」 「それじゃあMaggieに案内させるわね」 「コチラヘドウゾ」 「わあ、ふかふかだ♪」 「初音ぇ、あんまりはしゃぐなよ。  みっともないだろ」  家では見られない大きなベッドに初音ちゃんが飛び乗る。  そういえば最近家でもゆっくりしてないもんなぁ… 「お部屋は気に入っていただけましたか?」 「あ、シンディさん」 「案外落ちついた部屋なんですね。  お城というからもっときらびやかなのを想像していました」 「前にも言った通り、うちは身分にこだわりませんし、  こういう造りの方が私達も落ち着けるもので」 「いや、すごく良い雰囲気だと思います」 「ありがとう。そう言っていただけると嬉しいわ。  じゃあパーティーの準備が出来たら迎えに来ますから」  シンディさんは軽く会釈をして去って行った。  …さてと、どうしたもんかな。 「耕一ぃ〜、ちょっと街を見に行ってもいいか?  ここで待ってても退屈しちまうよ」 「あっ、わたしも行きたい!」 「そうだな。パーティーまでまだ時間はあるし、  俺もちょっと見に行こうかな」 「じゃあみんなで行きましょうか」  そんな感じで部屋を出ると王様と鉢合わせた。  自らパーティーの準備をしている様だ。 「オヤ、ドウシタノカネ皆ソロッテ?」 「ええ、ちょっと暇つぶしに街を見て来ようかと思って」 「ダッタラカジノヘ行ッテミルトイイ。  実ハ私達ガ経営シテイルンダヨ」 「そんなのがあるんですか。行ってみます」  町外れにあったカジノはちょっと怪しい雰囲気。  地下へと続く階段を降りた所にあった。 「うわあ、なんだか凄いね」 「カジノってどんなゲームが出来るんだ?」 「えーと、闘技場…どのモンスターが当たるかを予想…か」 「モンスターって、あれはアリアハンにいた種類ですよね?  それに狂暴なモンスター達をどうやって集めているんでしょう」 「王様が公認でやってるんだからハンターを募ってるんじゃないか?」 「でもそんな張り紙とかは見当たらないぞ」 「それは私が集めているのデス!!」  ヒュン!! カッ! 『うわぁ!!』  声と共に目の前に矢が突き立てられた。  声のする方を見ると…あれ、あの娘はこの間…  何て事を考えている間にもその娘は弓を引き絞る。 「正気の沙汰じゃないな」 「というか目付きが普通じゃないよう」 「耕一さんっ、危ない!!」 「うおっと!」  間一髪で矢を避ける。 「耕一さん、大丈夫ですか…?」 「ああ…と、とにかく一旦出よう!」  慌ててカジノを出ようとすると。 「ヘレン!!またお客様に迷惑をかけて!」  丁度現れたシンディさんがその子に向かって一喝した。 「あ、Syndy…」  その声で正気に戻ったらしい。 「あら、耕一さん。こちらにいらしてたんですか」 「散歩がてらに王様にここの事を聞いたので」 「ところでヘレンって…あの女の子とお知り合いなんですか?」 「妹です。そういえばまだ紹介していなかったですね。  ヘレン、ちゃんと挨拶しなさい」 「初めまして、じゃないネ。アタシはレミィだよ。 「レミィ?ヘレンじゃないの?」 「ヘレンは家の中での呼び方。  本当の名前がレミィなの」  なるほど。愛称だったのか。 「それよりさっきはゴメンナサイ。  狩りの後はついああなっちゃうの…」 「ははは…まあ怪我は無かったみたいだし、気にしなくていいよ」  とんだおてんば姫だな、お姉さんとは大違いだ。  なんて思っていると、 「やっと元に戻ったみたいだ」  物陰から男の子がひょっこり現れた。 「ミッキー!あなたまたヘレンを焚き付けたのね」 「だってその方が狩りが早く終わるから…」 「後の事を考えなさいって言ってるでしょう!」 「Sorry…」  シンディさんにしかられてバツが悪そうにしている。 「ひょっとしてその子も…」 「ええ、弟のミッキーよ。  時々ヘレンとカジノのモンスター狩りをさせるんだけど  いつもこんな調子で困ってるのよ」  するとミッキーは両手を広げてやれやれといった素振りでおどけて見せた。  そしてレミィとミッキーに改めて千鶴さん達を紹介していると王様がやってきた。 「耕一君、ソロソロパーティーノ準備ガ出来タヨウダヨ。  ン?オオHelen、狩リハ終ワッタノカ?」 「Yes!今耕一達を紹介してもらってた所ヨ」 「ソウカ、ソレデ狩リノ方ハドウダッタンダ?」 「危うく俺が狩られるところでした」 「No!それは言わないで…」  申し訳なさそうなレミィを見て千鶴さん達も思わず苦笑いした。  その夜は楓ちゃんも呼んでみんなでパーティーに参加。  豪華な料理の中には王妃様が手伝った物もあったらしく  明らかに味付けを間違っていたりもしたが、  それはそれで話が盛り上がり楽しい一時を過ごした。  しかし一番驚いたのはシンディさんの意外な一面だった。 「おっと!…あ」 「ふう、どこかこぼれたりしてない?」 「え、ええ…どうも」  あれほどの潔癖症だったとは…  どうも一筋縄ではいかない家族の様だ。  きっと起伏に富んだ毎日を過ごしているんだろう。
第19話 悲しみの森 「じゃ、行って来る」 「みんな、気を付けてな…」 「大丈夫よ、梓」 「それより梓お姉ちゃんこそ大丈夫?」  ロマリア城のパーティーから一夜明け、  塔での一件が気になる俺達はカザーブの北の森へ向かう事にした。  留守番に決まった梓は昨日いつの間にか飲んでいた酒のせいで  あまり気分が良くないらしく表情も暗い。 「これくらいどうってこと……」 「パーティーだからって大目に見たけど  いくらなんでも飲み過ぎだっつーの。」 「――ッ!わかったから大声出すなって」 「あまり長居しない方がいいみたいです」 「それじゃ、行きましょうか」 「そうだね、じゃあ行くよ、ルーラ!」 「さてと、二日酔いに効く薬草ってあったっけ…?」 −カザーブ−  千鶴さんの提案で村の人に北の森に何があるか聞いてみることにしたのだが… 「え、北の森?」  またこの娘か。 「森の入口にノアニールって村があって…」  なんだ、普通に答えてくれてる。 「みんな寝てる」 「へ?」 「行けばわかるよ」 「あ、ちょっと!」  やっぱりおかしな娘だ…。  しかし他の村人に聞いても北の森や村の事は  知らないとか近づかない方がいいと言うばかりで  はっきりとした事はわからずじまいだった。 「行ってみるしかないってことか…」 「耕一お兄ちゃん、本当に行っても大丈夫…?」  初音ちゃんは村人の話を聞いて怯えてしまったようだ。 「大丈夫、何があってもみんなは俺が守るから」 「耕一お兄ちゃん…うん、わたし頑張る」  村を出て北へ向かうと森の側に小さな村を見付けた。 「あれがノアニールの村か…」 「塔にいた女の子もこの村にいるんでしょうか?」 「行ってみればわかることさ。  村なら危険なことも無いだろうし、行くよ」  そう言って村へ近づこうとした時だった。 チリチリチリ… 『!!』  この感覚はあの時の…!  …いや、少し違う。なんだかやさしい感じだ。 ドサッ。 「初音?!」 「えっ!?  あっ、初音ちゃん!!」  楓ちゃんが叫んだかと思うと初音ちゃんが倒れていた。 「…良かった。寝ているだけみたいです」 「ふう…でもどうして急に?」 「きっとさっきから感じているこの感覚のせいだと思います。  私はなんとかこらえていますけど…」  そういえば千鶴さんも楓ちゃんもなんだか辛そうだ。 「とにかくここじゃ危険だ。村へ運ぼう」 「は、はい…」  不思議な感覚は村へ近づくほど強くなったが  どうにか辿り着く事が出来た。 「すみませーん、どこかこの子が休める場所は…」 ……!  なんと村を見渡すと村の人たちは皆倒れている。 「死んでるのか…?」 「いいえ、眠っているんです」 『!!』  戸惑う俺達の前に一人の青年が現れた。 「普通の人はこの村へ辿り着く事も出来ないはずなのに  あなた達は一体……」 「それはこちらが聞く事ですわ。  この村は一体どうなっているんですか?」 「すみません、全部僕のせいなんです。  とにかくその子を僕の家へ…」  青年に案内されて一軒の家に。 「僕は長瀬祐介」 「俺は柏木耕一、それから…」 「私が柏木千鶴、それと楓に…初音です。  さて、どういう訳か教えていただけますね?」  初音ちゃんの事が気がかりなのか、  千鶴さんは強い口調で問い詰めた。 「その前にこのままでは皆さんも話し辛いでしょう。  ちょっと待ってください………っ!」  すると頭の中を巡っていた感覚が弱まった。 「…あれ?わたしどうしちゃったの?」 「初音!!」  その直後眠っていた初音ちゃんが目を覚ました。 「これが僕の…電波の力です」 「電波?」  それからしばらくお互いの経緯を説明しあった。 「という事はあなた達は瑠璃子さんに会ったんですか?」 「おそらく」 「それにしてもシャンパーニの塔にまで毒電波が…」 「それでこの騒ぎの原因は西の森に住んでいる人のせいなんですね?」 「ええ、僕が瑠璃子さんに会いに行ったりしたせいで怒って…」  彼はそれを自分の責任と感じているのか…。 「今の僕には村のみんなを眠らせて毒電波から守るので精一杯なんです。  瑠璃子さんが説得してるけど聞いてくれないみたいで…」 「お願いです!  西の村へ行って瑠璃子さんの手助けをしていただけませんか?!  あなた達なら月島さんの毒電波にも耐えられるはずです!」 「わかった。村の人が眠ったままなのも可哀相だし、  出来る限りの事はやってみます。みんなもいいね?」  3人とも無言でうなずく。 「ありがとう…ございます」 「但し自分達に危険を感じたらすぐにやめさせてもらいますよ」 「ええ、あなた方の身の安全を第一にしてください。  僕も万が一の巻き添えを増やしたくはないですから」  巻き添え?何か嫌な予感がする言葉だ。 「それではお気を付けて。  途中までは僕の電波でいくらか毒電波を弱められると思います」 「ありがとう」 (勇者の血か…でもそれだけで僕の電波に耐えられるものなのか…?) −西の森− 「みんな、大丈夫?」 「ええ、なんとか…」 「私も大丈夫です」 「………」  森の奥まで来ると長瀬さんの力も届かないらしく  初音ちゃんはこらえるので精一杯の様だった。  それでも先へ進むと少し開けた場所に小さな家があった。 「ここか…迷っている暇は無いな」  ためらう事無く扉を開ける。 「もうやめてお兄ちゃん。  私はずっとここにいるよ」 「だめだ!瑠璃子の心の中にはまだあいつがいる!  どうして僕の事だけを見てくれない…!」 「それは…」  塔で会った女の子が男の人と話している。  おそらくあの男性が… 「…!誰だ?!」 「あ…」 「お前達どうやってここに…  そうか!あの男の差し金だな?  お前達もすぐに壊してやる………!?」  激しい感覚にこらえながら身構えようとすると、  突然男が苦しみ出した。 「る、瑠璃子…! どうして…」 「安心して、私はずっと一緒にいるから…」  しばらくすると嫌な感覚は消え、男は黙り込んでしまった。 「ありがとう、来てくれたんだね。  あなた達なら大丈夫だと思った」 「その人は…」 「あなた達が気を逸らしてくれたおかげで止められたの。  大丈夫、これからはずっと私がついてるから。  それから祐介ちゃんにもありがとうって…」  俺達は黙ってその場を去りノアニールの村ヘ戻った。  村では既に皆目を覚ましており、長瀬さんに森での事を伝えた。 「そうですか………ありがとうございました」 「いえ、俺達何も出来なくて…」 「いいんです、それで良かったんですよ」  状況の飲み込めていない村人達を後に、俺達は村を出た。 「祐君、何で泣いてるの?  祐君のおかげでみんな無事だったんでしょ?」 「うん、そうだよね、あはは……」
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