第3章 砂漠の国

第20話 夜の町 「ちょっと暑いな…」  ノアニールでの一件を終えた俺達はロマリアから東へ進んでいた。  ロマリアでシンディさんからイシスと言うお城の事を聞いたからだ。  何でもその王家は巨大な情報網を持っており、  きっと何かしらの手がかりがつかめるだろうという事だった。 「ほらほら、この程度でへばってたら砂漠なんて超えられねぇぞ」  イシスのお城は砂漠の中にあるそうだ。  天然の要塞ということなのだろうか?  それにしても梓のやつ、普段から運動してるだけあって元気あるなぁ。 「楓ちゃん大丈夫?」 「は、はい…」 「みんなも疲れてるみたいだしちょっと休憩し…」 「耕一〜!向こうに町が見えるぞ〜!!」  梓の声で駆け寄ると、砂漠の手前に町があるのが見えた。 「それじゃああの町までもう一頑張りね」 −アッサラーム− 「町に入っても暑いものは暑いか…」 「とりあえず宿屋へ行って楓を休ませないと」 「だったらあたしは街を一回りしてくるよ」 「ああ、分かった」  相変わらず元気な梓と分かれてひとまず宿屋へ。 「ふう…」 「大丈夫?」 「はい、しばらく休めば平気です」 「それじゃあ俺も街を見て来るよ」 「あ、だったら私も…!」 「千鶴さんは楓ちゃんに付いていてあげて。  それに千鶴さんだって疲れてるんじゃない?」 「え、ええまあ………」 「梓は危なっかしいから放っておけないだろ。  すぐに戻って来るから」 (もう、折角二人で街を見て周ろうと思ったのに…)  改めて街を観てみると、何故か所々営業していない店がある。  定休日でもあるのだろうか? 「さてと、梓は…」 「話にならないよまったく!」  梓を探していると怒声を上げながら店を出る姿が目に入った。 「どうしたんだ?」 「どうもこうもないよ!  えらくなれなれしく話しかけてくると思ったら  とんでもない値段をふっかけて来やがるんだ」  試しにその店に入ってみると確かにひどい値段だった。  しかも断わると簡単に値を下げる上にそれでも高い。 「イシスまで買い物は控えるか…ん?」  宿へ戻ろうとすると一枚の張り紙が目に付いた。 ≪今夜はスペシャルステージ!≫ 「お〜い耕一〜、さっさと戻ろうぜ」 「すまん、先に行っててくれ。すぐ戻るから」 「…?」 「劇場…っと、ここか」  張り紙にあった劇場では何やら準備が進められていた。 「うん、別に変な所じゃなさそうだ。  これならみんなと来ても大丈夫だな」 「どうした青年」  帰ろうとすると一人の男性に声をかけられた。  眼鏡をかけた優男といった感じだ。 「君も今夜のステージを見に来たのか?」 「ええまあ、そんなところです」 「僕はここで毎週歌ってるって娘が気になってね。  なんでもかなりの実力らしいんだ」 「へえ…」 「しかしこういう場所に来るには物騒な格好だな君は」 「あ…」 「いや失敬。この辺りじゃそれくらいが普通だったか」  男はそう言って苦笑した。  そういや随分ラフな格好してるなぁ。 「それじゃ俺、宿屋に連れがいますので」 「そうか、じゃあまた夜にでも会おう」  俺は宿へ戻って劇場の事をみんなに話した。 −夜− 「ここが劇場…」 「なんだ、意外と小さいんだな」 「スペシャルステージってどんなのなんでしょうね」 「もうすぐ始まるみたいだ、席に着こう」  しばらくするとステージにスポットライトが。 「皆さ〜ん!今夜も志保ちゃんオンステージへようこそ〜!!  早速いつものやつから行くわよ〜!」 「へいへい、勝手にしてくれ」 「あんたは黙って聴いてればいいのよ!」 「まあまあ二人共…」 「(志保、ここはいつものお店じゃ無いんだから…)」 「あらやだ、あはは〜  それでは気を取り直して歌いま〜す♪」 「なあ、あの人達って客だよなぁ…?」 「そういう演出なのかも知れないぞ」 「多分…“素”だと思います」  そんなこんなでステージは始まった。 「あ、この歌いいですね」 「なんて曲なんだ?」 「私も知らないです」  みんなで歌に聞き入っていると突然後から声をかけられた。 「やあ、ここに居たのか」 「あ、あなたは昼間の…」 「連れって彼女達の事?羨ましいねぇ」 「ははは…家族みたいなものですから」 「家族ねえ…、なるほど。  ところでアレ、どう思う?」 「ステージのことですか?  う〜ん、歌は上手いと思うけど…」 「けど?」 「なんだか自分が楽しんでるだけっていうか…」 「へえ、判ってるじゃないか。  そうなんだ、楽しんでやる事も大事だけど  人を楽しませるって気持ちが感じられない。  それにこのステージはあの娘一人では出来ないね」 「そうなんですか?」 「前にいる子達だよ。  あの子達がフォローしているからこそスムーズにやれている。  これはハズレかなぁ…」  そう言うと男は考え込んでしまった。 「あの…耕一さん、こちらの方は…?」 「あ、千鶴さん。うん、昼間にちょっと知り合ってね。  今話が終わったところだよ」 「そうなんですか。それじゃあそろそろ帰りません?  梓達もなんだか退屈してしまったみたいで…」  見れば楓ちゃんに至っては眠たそうにしている。  何せさっきからあの娘が歌っているだけなのだ。  どうしてこのステージが毎週あるんだろう…?  結局俺達は途中で出て来てしまった。 −ステージ終了後の劇場− 「何なのよあの人達!!  途中で帰っちゃうなんて失礼しちゃうわねー」 「はは、そうだね」 「その割にはいつもより長かったよね」 「まあね〜♪その分ストレス発散しなきゃ」 「ったく本当に好きだな。  ちょっとは付き合う方の苦労も考えないのか?」 「何よー、私の歌が聞けるんだから良いでしょ〜!?」
第21話 すごろく実況中継2 「あれ?あの建物は…」  アッサラームから砂漠へ向かう途中の森に見覚えのある建物があった。 「ロマリアの北にあったゲームセンターみたいですね」 「チェーン店だったのか?」 「ちょっと見てみたいです」  そういえば楓ちゃんは入った事なかったっけ。 「それじゃあ1回だけな。誰がやる?」 「あたしがやる!耕一に出来たんだから楽勝だろ?」 「でも前のより大きいみたいだぞ、大丈夫か?」 「平気平気、パパッと終わらせて来るから待ってなって」  意気揚揚と手を振る梓を見送った。 1回目…4  「バブルスライム」×6が現れた! 「弱い弱い!」 2回目…5  -100ゴールド。 「あっちゃ〜」 3回目…1  HPとMPが全回復した! 「別に疲れてないって」 4回目…4  いきなり財布がずっしり重たくなった。  なんと3662ゴールドを手に入れた!! 「へへっ、ラッキー!」 5回目…4  200ゴールド手に入れた。 「ついてるついてる」 6回目…5  6ゴールド拾った。 「これっぽっちかよ」 7回目…4  1つ進んでから5ゴールド拾った。 「ちぇっ、またか」 8回目…3  3歩戻った後戦闘。 「ハア、くたびれただけかよ…」 9回目…5  153ゴールド拾った。 「まあまあだな」 10回目…5  よろずやに入る。 「こんな所にお店があるなんてな。  おっ、これなんかいいんじゃねぇか?」 11回目…2  「じごくのハサミ」×2が現れた! 「マジかよ?!全然歯がたたねえ…逃げるが勝ちだ!」 12回目…5  サイコロの数が1つ増えた。 「まだ余裕はあるけど助かるね」 13回目…3  落とし穴だ! 「うわっ!!」 ドスンッ!! 「あたた…、いきなり開くんだもんな」 「お疲れさん」 「あ、耕一……」 「駄目だったみたいだな」 「今日はたまたま運が悪かっただけだって!  それに中にあったお店でこれ買ってきたよ。  楓にちょうど良いんじゃ無いかと思ってね」  それは「マジカルスカート」だった。  早速楓ちゃんに身に着けてもらう。 「あら、かわいい」 「うん、似合ってるよ」 「ちょっと恥かしいです…」 「すごろく券は無駄にはならなかったってことかな?」 「ま、そういう事にしておいてやるか」 「なんだと〜っ、偉そうに!  耕一がクリアしたのなんて全然簡単なヤツじゃねえか!」 「そういう事はあっちをクリアしてから言うもんだぞ?」 「だったら今から行ってクリアしてやる!」 「梓、やるのはいいけど旅が終わってからにしてちょうだい」 「というわけだ、行くぞ」 「〜っ!!」  砂漠へ着くまでの間、梓の文句は絶えなかった。
留守番 初音の場合-その1- 「あれ?!智子お姉ちゃん!」 「なんや、初音ちゃんやないの」  お留守番の間にあのお店に行ってみたら  なんとゲームセンターで会った智子お姉ちゃんがやって来たの。 「どないしたん?一人で」 「私はお留守番だよ。  智子お姉ちゃんはどうしたの?」 「私はまあ…なんとなく辿り着いただけや」 「ふ〜ん?」 「で、初音ちゃん達はあれからどうなんや?」 「うん、それがね!」  わたしは盗賊のおじちゃん達の事やお城のパーティー、  ノアニールの悲しい出来事などを話してあげました。 「ふ〜ん、色々あったんやなぁ」 「お待ちどう、初音ちゃんは特製ケーキとミルクティー、  こちらはコーヒーですね」 「へえ、それが特製ケーキ?  メニュー見て気にはなっとったけど別に普通やんか」  薬草ケーキはあれから改良されて名前も特製ケーキになっている。  もうすっかりこの店の定番メニューになったみたい。 「あれ?ちょっとお兄さん、ミルクはどこにあるんや?」 「え、ミルク入れるんですか?  てっきりブラックでいいものかと」 「こんなんミルク無しじゃ苦くて飲めへんわ」  智子お姉ちゃんはその後コーヒーにミルクと砂糖を多めに入れた。  私もちょっと意外だったなあ。 「それで今はイシスを目指しとるんか。  そやったらあの店にも行ったかもしれへんな」 「あの店?」 「ロマリアの近くにあったゲーセンのチェーン店があの辺りにもあってな、  私はなんとか前のをクリアしてそこへ行ってみたんやけど  クリア出来る気がせんかったわ」 「へえ、耕一お兄ちゃんならクリア出来るかなぁ?」 「さあなあ、さすがに難しいんやないか?  多分モンスターにやられるか落とし穴に落ちてしまうかや」 −イシスの砂漠入口付近− 「へくしっ!」 「なんだ梓、急にくしゃみなんかして」 「どっかであたしのうわさでもしてんのかな?」 「そんなのは迷信です」  それから智子お姉ちゃんもケーキを注文して  好きな食べ物の話などをしました。  すごく楽しかったけど時々寂しそうな顔をしたのが気になります。
第22話 オアシスの町 「こういちぃ〜、みず〜」 「あんまり飲むと余計バテるぞ」 「もうそんなに残ってないんだから我慢しなさい」 「そんな事言ってもあちいよ〜」  砂漠へ入って数時間、入る前はあれだけ元気だった梓も  この暑さにはさすがにかなわないらしい。  しかも我慢せずに「暑い」を連呼するものだから俺達まで滅入ってくる。 「楓ちゃん大丈夫?」 「………はい」  楓ちゃんもそろそろ限界みたいだ。  もう少し歩いて何も見当たらない様だったら  一度帰った方がいいかもしれない。  そんなことを考えていると遠くに建物らしき影が見えた。 「耕一さん、あそこ!」 「ああ、わかってる。あれが多分イシスのお城だ」 「…蜃気楼で…なければいいけど……」 「楓ぇ、嫌な事言うなよ…」  楓ちゃん…冷静なのか暑さにやられているのか… 「みんな、もうひと踏ん張りしてくれ」  それが何であろうと進むしかなかった。  そして数十分後。 「やった!町だ町、本物の町だ!」  梓が途端に元気になる。全く現金な奴だ。 「とにかく一休みしようか。  行くよ、千鶴さ」 ドサッ 「千鶴さん!!」 −宿屋− 「すみません、町へ着いたら気が緩んでしまって」 「こっちこそ気が付かなくってごめん」 「耕一さんのせいじゃありませんよ」 「でも……」 「ふ〜、生き返った。耕一〜、街を見て…」 サッ! 「っと、お邪魔だったかな?」 「あ、梓っ!」 「お風呂気持ち良かったです」 「楓ちゃんも…」  いつもながら間が悪い、なんて言うのは不謹慎なんだろうか…? 「本当ならまずはお城に行きたい所だけど  千鶴さんがこの様子だし、今日は自由時間にしよう」 「じゃああたしは街を見て来るよ」 「私は部屋で休んでいます。  千鶴姉さんには私がついていますから  耕一さんも行って来てください」 「それじゃ、そうさせてもらおうかな」  俺も千鶴さんについていようかと思ったが、  楓ちゃんの口調がなんだか強く感じられたのだった。 「楓、私ならもう大丈夫だから行ってらっしゃい」 「いいんです。  アッサラームで看病してもらったから、そのお返しです」 「そういうこと。  ふふっ、ありがとう、楓」  イシスの城下町へ出た俺と梓は、街の片隅に闘技場を見つけた。 「これってロマリアのカジノと同じようなもんか?」 「みたいだな、ちょっと遊んで行くか」  中はロマリア同様の賑わいを見せていた。 「よしっ!耕一、勝負だ!!」 「勝負?」 「そう、お互い別々のモンスターに賭けて当たった方の勝ち!」  さてはまだゲーセンの事を根に持ってるな? 「分かった。じゃあ先に3回当てた方の勝ちだぞ」 「オッケー」 −そして− 「悪いな梓、俺の勝ちだ」 「く〜っ!あそこでマヌーサなんか使わなかったら…」 「そういうのを後の祭って言うんだぞ」  とは言うものの3勝2敗という際どい結果、  しかもこれでは梓の機嫌は当分直りそうもない。  手を抜くも何もほとんど運だし、まいったなこりゃ…
第23話 挨拶代わり? 「近くで見るとますますでかいな」  一夜明けて千鶴さんも元気になったので、  俺達はお城へ挨拶に向かっていた。 「確か、来栖川…でしたっけ?」  シンディさんから聞いてはいたけど想像以上だ。  確かにこれなら何かしらの情報が得られるかもしれない。 「ところでこの門どうすれば開くんだ?」  すると突然門が大きな音を立てて開き、  その向こうに一人の女の子が立っていた。 「ようこそいらっしゃいました。  柏木耕一様御一行ですね?」 「え?あ…は、はい」 「綾香様がお待ちです。こちらへどうぞ」 「あ、ちょ、ちょっと!」  その赤茶けた長い髪の娘はあまり抑揚の無い声で話すと  お城の奥へと入って行った。  急な出来事に面食らいながらも慌てて後を追おうとすると…。  !?は、疾い!!  その娘は突如もの凄い勢いで走り出した!  俺達は訳も分からぬまま必死で後を追った。 「綾香様、お客様をお連れしました」 「ハア、ハア………」 「ご苦労様。  へえ、セリオについて来れるとは大したものね」  俺と梓に遅れて千鶴さんと楓ちゃんがやって来る。  着いた先に待っていたのは長い黒髪の女の子だった。 「ま、全く…、なんだってんだ…、一体……」 「申し訳ありません、  綾香様よりあなた方の運動能力を試せという指示がありましたので  事を荒立てない為にこのような方法を採らせていただきました」  さっきの女の子があれだけの速さで走ってきたばかりだというのに  顔色一つ変えずに答えた。 「試すって……?」 「その前に自己紹介が先ね。  私は来栖川綾香、一応このお城の当主って事になってるわ。  それからあなた達を案内してきたのがセリオよ」 「あ、俺達は……」 「知ってるわ、柏木耕一さんでしょ?  さっきも言った通りあなた達の事はずっと見ていたのよ」 「それは監視していたということでしょうか」  千鶴さんは少し険しい表情をしていた。 「監視……そう言えなくも無いわね。  でもあなた達をどうこうしようってワケじゃないわ。  ただちょっと興味があったのよ」 「興味?」 「格闘家として魔王を退治しようなんていう人達の実力がね」  一瞬、人懐っこい表情が一変してするどいものになる。  その気迫を感じて俺達は思わず身構えた。 「あ、心配しないで、  何もここで一勝負しようだなんて言わないわ。  ……やってみたいのも確かだけどね」  と言って表情を緩める。 「それで魔王の居場所を知りたいんでしょう?」 「ええ、知っているんですか?」 「大体の見当は付いてるわ」 「それじゃあ…」 「でも教えられない」 「え?」 「その場所には普通の方法では近づく事すら出来ないの。  結界か何かあるみたいね。  だからそれを破る方法が無い限り教えても無駄って事。  第一…」 「…第一?」 「あなた達の腕じゃ魔王と戦う前にやられちゃうわ。  この砂漠を渡るのにでさえ苦労してたんじゃ  教えてもやられに行くだけだもの」 「そんな………」  俺達が冒険者として未熟なのは分かっていたけど  面と向かって言われてしまうと何も言えなくなってしまった。 「ただ私としても魔王が同じ世界にいるなんて気に食わないからね、  協力はさせてもらうわ」 「本当ですか!?」 「そうねえ、とりあえずこれから旅を続けるにしても  船とかあった方が良いでしょ?  姉さんに言えば貸してもらえると思うわ」 「お姉さん?」 「ええ、ポルトガって所にいるんだけど  そこへ行くには魔法の鍵が要るのよねぇ」  と言った所で少し口元が弛んで見えた。 「で、その魔法の鍵が北のピラミッドにあるから  自力で取ってきてね♪」 「自力でって…」 「私だって暇じゃないのよ。  闘技場のモンスターを捕まえたりしないといけないし」 『!!』 「言い忘れてたけど、街にある闘技場はウチで経営してて  私がトレーニングついでにモンスターを捕まえてるの。  セリオにも手伝ってもらってるけどね」  これにはみんなも驚いたらしい。  彼女はどう見ても梓くらいの年齢で体格だって華奢な方だ。  その上このお城の主か。  さっきのするどい目付きといい、  全力疾走(少なくとも俺達にはそうだった)をしても  平気な顔をしていたセリオといい、ただ者じゃないな… 「でもなんで鍵がわざわざそんな所に置いてあるんだ?」 「それはまあ、ちょっとしたワケがあるのよ、  あそこは大事な物しまうには都合がいいし。  そうそう、魔法の鍵を手に入れたら一応私に知らせに来てちょうだい」  その口振りが妙に楽しそうなのが気になったが、  俺達は城を後にして一路ピラミッドを目指すことにした。 「さて、ピラミッドへ行く前に一旦家に帰るか。  …あれ、どうしたの千鶴さん?」 「その…今もどこかで見張られているのかと思って……」 「今まで視線を気にしたことは無いけど  本当に見られてるのか?」 「私も気配を感じた事は無いです」  相手がよほど上手く隠れているのか、  それとも特別な方法を使っているのか…  なんだか気味が悪いな。 −再びイシス城− 「さてと、セリオはどれくらいかかると思う?」 「少なくとも3日は必要だと推測されます」 「あら、私と同じだなんて随分買い被るのね」 「いえ、別に……」 「冗談よ。私もそれくらいで終わると思ってるわ。  もっとも4人がかりだからそれより早いかもしれないけどね」
第24話 「千鶴お姉ちゃん大丈夫かなぁ…」 「大丈夫だって、どうせ留守番になったからスネただけだろ」  イシスで倒れたと聞いた初音ちゃんが心配している。  多分梓の言った通りなんだろうけど…… 「さてと、今日は魔法の鍵を手に入れるのが目的だけど  くれぐれも無理はするんじゃないぞ」  と言ってもやっぱりみんな辛さを表に出さないからなぁ。  俺がしっかり気を配らないと。  イシスから砂漠を北へ。  セリオのくれたメモのおかげでほどなくピラミッドが見えてきた。 「こりゃまたでけぇな」 「ここに魔法の鍵があるんだよね?」  ピラミッドはイシスのお城より更に大きく、  とても個人の所有物には思えなかった。 「突っ立ってても日差しにやられるだけだ、  とりあえず中に入ろう」 「…それが良いと思います」  入口は砂に埋もれないようにする為か少し上がった所にあった。  中は始めの内は焼けた石のせいでかなりの熱気がこもっていたが、  奥へ進むと意外なほど涼しかった。 「ふい〜、生き返ったぁーっ!」 「お城と同じで空調が効いてるみたいだな」  多分倉庫や貯蔵庫にもなっているんだろう。  なんにせよ今日は初音ちゃんもいるだけにありがたかった。 「さ、一息着いたところで進むか」 「それじゃさっさと魔法の鍵を取って来ちまおうぜ」 「梓お姉ちゃーん、モンスターだっているんだから  無理しない方がいいよ〜」  そう、何故か入口に鍵はかかっておらず、  通路にはモンスターが徘徊しているのだった。 「大丈夫だって、モンスターの1匹や2匹、うわっ?!」 ガタンッ!  突然梓の姿が消え、ドーンと大きな音がした。  見ればそこには穴が空いている。床が抜けたか?  みんなとその穴に駆け寄った。 「梓お姉ちゃん、大丈夫ー?」 「いてて…全くなんてヤワな床だ……あれ?」 「どうした梓?」 「この床、踏み抜いたんじゃなく“開いた”みたいです」  いち早く気付いた楓ちゃんが指差す。  よく見てみると、穴は人工的に作られたものである事が分かった。 「防犯装置にしたって幼稚な…」  しかし梓は実際に引っ掛かった。 「モンスターを無闇に奥へ行かせない為かもしれません」 「なるほど、そうだとすると…  梓ー、周りにモンスターいるかもしれないから気をつけろよ〜」 「げっ、マジか!?  耕一〜、そんな所で見てないで早く降りて来てくれよ〜」  さすがにこの辺りのモンスターを一人で相手するのはきついらしく、  情けない声を上げた。 「やれやれ、しょうがない。  楓ちゃん、初音ちゃん、降りるよ」  俺が先に飛び降り、楓ちゃんと初音ちゃんを受けとめようとする。  しかし二人共なかなか降りてこない。 「あれ、どうしたんだろう?」 「まったくデリカシーってもんがないんだからこの男は。  ほらほら、どいたどいた。  おーい、あたしが受けとめるから降りて来な」  なるほど、そういう事か。  俺は苦笑して後ろを向いた。  やっぱり女の子なんだよな…… 「さてと、上に昇る階段を見付けないと」  そう呟いた矢先にモンスターが現れた! 「梓!楓ちゃんと初音ちゃんは?!」 「わたしは大丈夫だよ!」 「今楓も下りてきた所!」 「ちょっと数が多い、楓ちゃん、魔法で援護して!」 「はい!」 ・・・あれ?  なんとかモンスターを倒した。けど… 「楓ちゃん、どうかしたの?」 「魔法が…使えません」 「…わたしも使えなかったよ」 「ええっ!?」  試しに呪文を唱えてみる。 「本当だ、使えない」 「多分この部屋に特別な仕掛けがあるんだと思います」 「そうだとしたら早く階段見付けないとヤバいな…」  数分後、どうにか階段を見付けてさっきの穴に戻って来た。 「ふう、ひどい目にあったよ」 「元はと言えば梓が不注意だったせいだぞ」 「うっ……」 「これからどうするの?耕一お兄ちゃん」 「私はまだ大丈夫です」  魔法が使えなかった分魔力は残っていたが、  先頭で戦っていた俺と梓が少し消耗していた。 「もうしばらく様子を見よう。  …足元には特に注意しながらね」  梓がバツの悪そうな顔をしたが、ひとまず探索を再開する。 「おっ、宝箱だ」 「でもなんか怪しくないか?」 「綾香さんはピラミッドのものは持ち出しても構わないって  言ってましたけど…」 「耕一お兄ちゃん、気を付けて」  恐る恐る宝箱へ近付く。 ひとくいばこが現れた!!  これもトラップか?!  ……それでも何とか撃退する事が出来た。 「ひ、ひとまず戻ろう。  魔法の鍵のある場所を聞いた方が良さそうだ」 『賛成〜』  あんな仕掛けがあるなんて聞いて無いぞ……
第25話 強運? 「綾香様は只今外出中です」  魔法の鍵がピラミッドのどの部屋にあるのかを聞くために  イシスのお城に戻った俺達へのセリオの第一声がそれだった。 「それでいつ頃帰って来るんだ?」 「2,3日はかかると言われていました」 「う〜ん、それじゃあセリオは知らない?魔法の鍵の場所」 「残念ながら存じ上げておりません」 「そうか……」  居ないのでは話にならず、仕方なく城を後にした。 「どうする耕一?  綾香さんが帰って来るのを待つか、  このままもう一度探しに行くか」 「この辺りのモンスター手強いからしばらくレベル上げしたいかも……」 「それくらいなら直接ピラミッドを調べながら戦おう。  時間も勿体無いしね」  そして再び砂漠を北へと進むのであった。 −イシス城− 「どうやら行ったみたいね」 「これでよろしかったのですか?」 「勿論よ。でないと意味が無いもの。  でもまさかあんなにあっさり引き下がるとは思わなかったわ」 「落とし穴に落ちたのは予想外でした」 「ああいうのは一人無鉄砲なのがいるだけで面倒だから。  時には人数が多いのも考え物ねぇ」 −ピラミッド− 「無闇に宝箱を開けなきゃ大した事ねえな」 「そういう油断が命取りになるんだぞ」 「分かってるって」  上の階には特に落とし穴などはなく、順調に奥へと進んでいた。 「あれ?ここ、扉みたいだけど開かないぞ……?」 「壁に何か書いてあります」 『鍵保管場所』 「つまり魔法の鍵はこの奥か……  多分近くにスイッチがあるんだろう」 (さてと、この扉が開けられるかしら?) (やはりヒントくらいは教えて差し上げた方が……) (今度聞きに来たら考えるわ) 「耕一お兄ちゃ〜ん、こっちにボタンがあるよ〜っ!」 「こっちにもあったぞ〜!!」  ボタンが複数…もしかするとどれかがトラップかもしれない。  急いで梓の元へ駆け寄る。 「梓、危ないからうかつに押すんじゃ…あ!」 「別に何も起こらないけど?」  既に押した後だった。 「どう考えてもこのボタンが怪しいのになぁ」  トラップでは無さそうだと安心した梓が適当にボタンを押しまくる。  その一方で初音ちゃんと楓ちゃんもボタンをいじっていた。  やれやれと思っていると…… ゴゴゴゴゴゴ… (…へ?) 「あれ?何か向こうで音がしなかったか?」 「扉の方だ!行ってみよう!!」  すると扉は開いており、中には魔法の鍵が安置されていたのだった。  鍵を手にしてひとまずお城へ行ってみると、  出かけていたはずの綾香さんが少し浮かない顔で待っていた。 「あれ?2、3日出かけてるんじゃなかったっけ?」 「は、はろ〜  魔法の鍵を手に入れたのね。はいこれ」  素っ気無く一枚の便箋を差し出す。 「これは?」 「姉さんへの手紙よ。それを渡せば船を貸してくれると思うわ」 「それは助かります」 「ああ、それから」 「え?」 「これからも時々あなた達の様子を見させてもらうかもしれないけど  今までほど細かくは調べない様に言っておくわ。  あいつらったら余計な事まで調べるんだもの」 「余計な事?」 「例えば宿屋で千鶴さんと…」 「わわっ!!」  慌ててそこで言葉を遮る。  ちらりと後ろを見ると何やらにやついた梓と少し神妙な面持ちの楓ちゃん、  そして皆の反応を不思議そうな顔で見ている初音ちゃんが目に入った。 「まあそういう事だから、これからは安心していいと思うわ」 「そ、そりゃどうも」  手紙を受け取った俺達は一度家に帰る事にした。 「ハァ……丸一日悩んだ私は何だったの……?」 「運、というものでしょうか」 「運も実力の内って言うけどいくらなんでも出来過ぎよ。  これも勇者の為せる技ってヤツなのかしら……」
留守番 千鶴の場合-その1- 「ふう……」  耕一さんと一緒にいられないのは寂しいけど、  一人きりになるのも久し振りね…  そういえば鶴来屋の方はどうなってるかしら? 「おはようございます、足立さん」 「あれ?ちーちゃん、どうしたの?」 「今日は留守番なんです。  それでこっちの様子が気になったもので…」 「鶴来屋は大丈夫ですよ。  安心して耕一君の手助けをしてください」 「そうみたいですね」  良かった、まずまず繁盛しているみたい。  これも足立さんがいてくれるからね。 「それで耕一君達は今どこへ?」 「イシスのお城に行っているはずです。  砂漠を越えるのには一苦労でしたね」 「そいつはいけない」 「?」 「砂漠の日差しで日焼けでもしたら折角の綺麗な肌が台無しですよ」 「まあ…ふふっ、ありがとうございます」 「ちーちゃんは鶴来屋の顔なんだから、  身だしなみには気をつけてくれなくちゃ」  そうよね、やっぱり日焼け止めとか使った方がいいのかしら?  そういえばあの綾香って娘、綺麗な顔してたわね。  きっといい日焼け止めを使っているんだわ、  今度教えてもらわないと。 「ところでいいお茶菓子があるんですけど食べて行きませんか?」 「へえ、どんなのですか?」 「ナジミの塔の地下にある喫茶店のなんですけどね…」 「もしかして特製ケーキ?」 「あ、御存知でしたか」 「ええ、実は色々あって……」  足立さんもあのケーキが出来上がるのに  私達が関わっていたのには驚いたみたい。  鶴来屋も大丈夫な様だし、耕一さん達早く帰ってこないかしら…?
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